バスカヴィル家の犬
この街はおまえなんか待たない 〜「新宿二丁目」をめぐる短編集
第4話「バスカヴィル家の犬」(1/10)
〈逆島鉈〉
公園には見えない大きな犬が住んでいて、ときどき客に姿を変えて僕らを買いに来る。
二十歳(ハタチ)になっても、まだこの公園で体を売っている奴は皆なから馬鹿にされる。
シカトしてるとそいつはもう公園には来なくなる。
二丁目の真ん中にある小さな公園。
地元のヤクザの仕切りで、十代の僕らは毎晩公園に立つ。
店に買いに行く客とは違って、公園に来る客は、変わってるオヤジが多い。
たいてい店から出入り禁止になったオヤジが、公園に流れてくる。
“コギャル”の援交を気取るつもりはないけど、でも同じ事をしている。
仲間たちは、絶対に口には出さないけど、同じ事思ってる。「こんな事、十代のうちだけだ」って。
(【続く】)
(逆島鉈 さかしま・なたる)