八百万の死にざま(4/4)〜「新宿二丁目」読みきりフィクション
大人になるという事。子供じみた、ちゃちな思いやりが死に始める時、人は大人になるとしたら……。
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うじきさんが声を掛けてきた。5分程、駅へ向かい歩いた頃だった。
「さっきの子だよね。ありがとう。かばってくれて。お礼に、これ、うちで一緒に観ようよ。観た事ないんじゃない? わりとさ」
うじきさんの背広の内側にテープがあった。僕の中で、何かが弾け、同時に何かが急速にしぼんだ。そのまま彼の衿(えり)をつかみ、猪子さんのいる店へと戻る。そして今、カメラの音とうじきさんの泣き声が店に響き渡っている。
火曜日の夜の10時。この街では、さまざまな形で、大人のプライドもまた、死んでいくのだ。
逆島鉈(さかしま・なたる)【終】