バスカヴィル家の犬(9/10)
●「バスカヴィル家の犬」
「見舞いになんか行くんじゃねえぞ」
木島さんの一言にエイフクと僕は顔を見合わせた。
マツドが立ち上がる。
「木島さん、何かあったら、助けてくれるって言ってたじゃー」
マツドが最後まで言い終わらぬうちに、木島さんに殴られて、ブランコの方へ飛ばされる。
僕らは、サメズの身に降りかかった不幸より、木島さんの豹変ぶりに、背筋を冷たくしていた。
「ぐだぐだ言ってんじゃねえ、オカマども」
その一言で僕らは全員下を向いた。
まるで自分の事を言われているのではないって感じで。
「金曜日だな、今日は。一週間過ぎんの早えな。夜は皆気合い入れてけよ」
そう言い捨てると、木島さんは煙草に火をつけ、公園を歩き回り始めた。
倒れていたマツドは、土を払いながら、いつものベンチに座る。
それきり誰も、サメズの話はしない事は僕にも判った。
【続く】