幻の終わり(2/4)
幻の終わり(2/4)
●「幻の終わり」
横顔を見た時、そうじゃないかなと思って客に声をかけたら、やっぱり吉村だった。
高校の同級生でいじめられっ子だった奴。
そんなに仲は良くなかったけど、高校の同じクラスにゲイが少なくとも二人居た事、そしてその二人が約十年後一軒のバーで再会した事の嘘みたいな偶然を素直に祝った。
吉村は、今日生まれて初めて二丁目に来てバーに入ったのだった。
そういえば入って来た時、ぎこちなかった。
しかし二十代の後半になってデビューとは、何たる廻り道だろう。
きっと自分がゲイであることを受け入れるまでに時間がかかったのだろう。
そういう人はまれにいる。
「つきあってる人、いるの?」
ひどい質問を吉村はしてくる。
二丁目で働くと逆にまじめに付き合ってくれる人は少なくなる。
火遊び、割り切り、一晩限り。
「好きだ」と一言も言わないまま、お互い何度も抱き合って、ある日突然電話がつながらなくなる。
こんな事の繰り返しだけど、最近、割といい感じの感触のある相手はいる。
ビギナーは、あんまり経験がないからわからない。
オールオアナッシングと決めてかかる。
その間の微妙な関係などいくら話してもわからない。
僕は答えず、あいまいに吉村に笑う。