幻の終わり
この街はおまえなんか待たない 〜「新宿二丁目」をめぐる短編集
第5話「幻の終わり」(1/4)
〈逆島鉈〉
人は長く一つの事を願い続けると、いざそれが叶った時に失望を必ず味わう。
充実感を得ることはまれた。
新生活にも慣れ、そろそろ冒険を始める四月の終わりから五月にかけて、GWに初体験を済ますゲイは多い。
長い性体験の空想の期間が終わり、おそるおそる新しい扉を開けに新宿二丁目にやってくる者が増える季節なのだ。
二丁目のゲイバーのそこかしこで毎年繰り返される聞き飽きた会話のやりとり。
チェリーボーイを狙って網を張る男の子も居れば、計算してひっかかる網を選ぶビギナーも居る。
そしてかけひきの最後のセリフは必ず決まっている。
「独り暮らしなんですか?」
くだらない世間話や、休日の過ごし方なんでほんとうはどうでもいいのだ。
このセリフがビギナーの口から出ると、商談は成立する。
商談といっても、金銭のやりとりではない。
若く未経験な青さを提供するかわりに、あなたの持つ快楽と大人への新しい世界に連れて行ってくれ、という取引だ。
この店のカウンターに入って二年。
ビギナーが独り暮らしかどうか質問すると、自動的にこの店から消えていくカップルを、何組見送ったことか。
可愛いい顔をして、チェリーボーイを売り物に、必要なものは必ずゲットして帰る。
そういうビギナーは割と多いのだ。
(【続く】)
(逆島鉈 さかしま・なたる)