利き腕(4/8)
利き腕(3/8)
待ち合わせは新宿二丁目のバーだ。昔、大学のゲイサークルのたまり場だった店だ。私がフられたのも、このバーだった。
第3話「利き腕」
浅見からの電話、とらなきゃよかったって思って。まあ、昔フッた相手だし、うざいのあんま好きじゃないけど、なんか本出してたのは知ってたから、「ブスが本出した」って思って、超ウケてたんだけど。自分も、二丁目で働き出してから、あんま面白い事もないし、自分の事書いた本とかって、どんなかなーとか思って。
浅見って、昔っからなんか、気が回らないとことかあって、自分の本名の松山くんとかって呼ばれると超迷惑だから、一応「まっちゃん」とかで通ってるし、一回でも松山くんとか言ったら、自分たぶん、そのまんま席立って帰っちゃうと思うし。
何冊か本出してたって聞いたけど、別に読んだ事なかったし、いっつも本も読まないから、ま、自分の事書かれたトコしか読まないし。
大学やめてバーでバイトって、思ったより楽しくなくって。結局ここに飲みに来る人って、店に入ってる子のこと、ホステスとかウェイター位にしか思ってなくて、昔思ってた「毎日が週末!」って感じのキラキラする感じがなんか、もう見えないっていうか。つまんないんだよねー。ま、でも、ブスが本書いて、自分にくれるって言うかー、とりあえず待ち合わせの店に行ったんだけど。
(【続く】)
(逆島鉈 さかしま・なたる)