幻の終わり(3/4)
幻の終わり(3/4)
●「幻の終わり」
「やっぱりGWだから、人混みすごかった」
扉を勢いよく開けて真(まこと)が入って来た。
この男なのだ。
いい触感のある男。
三つ年下。
真とは二回寝た。
話しは合うし、電話も交互にきちんとかけ合っている。約束をすっぽかされた事もないし、部屋にふいに行っても決して怒らない。
きっとあと一回寝たら、自分から交際を申し込むだろう。
真は吉村の隣の席に座った。
店が急に混み始めた。
大急ぎでおしぼりとコースターを用意する。
忙しく働く僕に、切れ切れに吉村と真の会話が耳に入って来る。
店の有線の音量を、もっと小さくすべきだった。
「あ、初めてなんだ、二丁目(ここ)来たの。へえ」
「僕、まだ誰とも付き合ったことなくて」
「ふーん、そうなんだ……」
真、そんな目で吉村を見てはいけない。
吉村も余計な事を話してはいけない。
「思い切って今日来て良かった。俺、吉村っていうんです」
「俺、真。たぶん年下だから、敬語使わないでよ」
吉村と真が、笑い合っている。
僕は手を休めずに、耳をそば立てる。
周りの客の飲むピッチ速く感じられる。
おかわりを数杯造ったが、上の空で味は保障できない。
たかが水割りなのに。
吉村と真が、意気投合しているように見える。
何を、一体何の話をしているのだろう。
「おかわり、いる?」
やっと割り込めたが、吉村と真は共に首を横に振る。
「もう一軒、別のとこ行かない?」
「いいんですか?」
「また敬語使ってる」
二人は笑顔である。僕は少しあわてる。
「独り暮らしなんですか?真くん」
「うん」