NYのハーヴェイ・ミルク高校とHMI訪問
「ハーヴェイ・ミルク高校」と「ヘトリック・マーティン・インスティテュート」を訪問2008年12月19日
1979 年からLGBTQ(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クエスチョニング=未決の略称)の青少年(21 歳以下)をサポートするNPOであるヘトリック&マーティン協会(HMI)。
そしてHMIのの研究機関として1985年に発足し、2003年には正式な高校として新たに開校された「ハーヴェイ・ミルク・ハイスクール」。LGBTの青少年のために、専門的なサービスを行う世界初の公立の教育機関です。
2008年12月のNY視察の中で、当会のユースプログラムS.I.P.の担当者岩本(Mikako)が訪問してきました。
HMIのオフィス
HMIのオフィスはビルの8階にあり、ハーヴェイ・ミルク高校は同じビルの2階でした。
HMIのオフィスには、創設者のヘトリックさんとマーティンさんの銅像や写真、また卒業生たちが撮った生徒たちの写真などが飾られていました。
HMIは、1979 年に、精神科医のへトリックと教育学者のマーティンによって設立された同性愛者の青少年をサポートする組織。ハーヴェイ・ミルク高校の運営の他に、ユースへのカウンセリング、ホームレスユースへの支援などを行っているとのことでした。
ハーヴェイ・ミルク高校
理事長と記念写真をとったあと、ハーヴェイ・ミルク高校の校長先生のアランさん、障害のある生徒を担当している教師がハーヴェイ・ミルク高校を案内してくださいました。
ハーヴェイ・ミルク高校は、15歳から21歳までの、NY市に住むレズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーのための高校。同性愛者であることの悩みや、差別によって学校をドロップアウトせざるを得ない状況にあったり、家庭内、学校内でまったくサポートのないLGBTのユースが、高校卒業の資格を得ることができます。現在の、生徒数20名前後ですが、他にも様々なプログラム(職業訓練や、料理やダンスなどのプログラムなど)を行っており実際の利用者はもっと多いと思われます。
ハーヴェイ・ミルク高校へ入学するためには、入学希望者への面接を大切にしている、とのことでした。たくさんいる希望者から、様々なことを聞き取ったあと、その生徒にとって他にさらに適切な場所があれば、そちらの機関へ振り分けれ、ハーヴェイ・ミルク高校の方がふさわしいということになった生徒が入学ということになる。希望者は、多いので、実際に入学するのは、とても困難であることは、容易に想像できました。
そのためもあってか、ハーヴェイ・ミルク高校は、NY市内の他の公立高校に比べて、生徒の卒業率が高いそうです。他の公立高校が70%位の卒業率なのに対し、ハーヴェイミルク高校に入学した生徒は、90%が卒業する、とのことでした。
ハーヴェイ・ミルク高校で教えている教師は、州が派遣する教師たちなので、HMIあるいは、ハーベイミルク高校が教師の採用を行っている訳ではない、というのが校長先生アランさんのお話でした。そもそも教師の採用に性的指向を問う項目はないが、「LGBTの生徒も、いつかは、一般社会に出て行くことになるから、先生までが同性愛者だけになって異性愛者に触れることができないのは、生徒にとってもむしろ良くないと思う」とのことでした。
滞日経験のある先生も。
障害者クラス担当の教師。かつて日本に来たことがある、ということで日本語を話すことができました。
「どのような経緯で、障害クラスを担当するようになったのか?」について質問したところ、元々、別の高校で障害者のクラスを担当していたし、障害のある生徒の方が、障害のない生徒より、出来るまであきらめない姿勢など、教えがいがあると感じている」、とのことでした。「では、どうして、「LGBT」の高校であるハーヴェイ・ミルク高校で教えているのか?」ということを聞いてみたところ、「同性愛者の友達が昔からいた」ということでした。
ちなみ「障害者のクラス」と言っても、日本の特別学級ほどの障害のある生徒ではなく、主にADHD(注意欠陥・多動性障害)やその他、軽い障害を持っている生徒を対象としているようでした。重度の障害をもつ子供に、自らの性的指向をどのように聞くのか? あるいは、それを外からどうやって判断するのか?といったような本質的な質問はできませんでしたが、ハーヴェイ・ミルク高校が、少なくとも自分の性的指向を他者に伝えることができる生徒を入学させている、ということは容易に想像できました。
ハーヴェイ・ミルク高校のカリキュラムなど
授業は、NYの他の公立高校と変わらないそうです。ただ「同性愛の歴史」について学ぶ授業があるので、その中にHMIやハーヴェイ・ミルク高校ができた経緯などを教えている、とのことでした。給食を出すため食堂もあり、学校内にはHIVの検査が受けられる環境があったり、カウンセリングも充実、医師も看護師もいるとのことでした。
ビルの1フロアーにある決して広いスペースとはいえないハーヴェイ・ミルク高校ですが、20名前後の生徒に対して、教員の数が9名、事務員が4名、警備員が2名の程度、その他にカウンセラー、医師、看護師などがいて、一人ひとりの生徒へのフォローが行き届いていることが伺えました。もう少し広くした方がいいのではないか?と思ってしまうが、それでも「綺麗になり、広くなったのだ」と校長先生はおっしゃってました。
ハーヴェイ・ミルク高校は、廊下や各教室などに生徒たちが描いた作品が並んでいるなど、生徒たちの表現の場を与えていることがよくわかるようなレイアウトになっていました。東京のこと、ニューヨークのこと
都市規模は対して変わらない東京とニューヨークだから、同性愛者のための高校の必要性は東京にもあるだろう。でも、同性愛者のための高校を作ろうというような動きは、10年後だろう。そして、開校できるのは早くても15年後位だろうか? 「10年」、「15年」、という年月にリアリティがあるはずもなく、漠然と私がそう思うだけの数字であり、結局は、楽観的な「何年後の希望」に過ぎないのだと思う。
だからといって、今の日本とNY、アカーやS.I.P.とHMI/ハーヴェイ・ミルク高校との圧倒的な差を前に、愕然としている訳でもなく、その差が全く気にならない、というわけでもなく、やはりロールモデルがあることの「安心感」が、歴然とした「差」をポジティブに見せてくれるのだと思う。
S.I.P.の目標をハーベイミルク高校としたならば、今やるべきことは必然的に見えてくる。しかし、今回視察に行って、HMI・ハーベイミルク高校がS.I.P.の目標になると断言できるほどの実績をS.I.P.が積んでいるとも思えないし、またそれほどまでに現在の日本のLGBTのユースの状況を把握できているとも思わない。
目標をどこにするか?ロールモデルがある中で、それを考えるきっけかになった。それが成果と呼べるなら、この視察はきっといつか素晴らしいものだったと言える時が来るだろう。悲観的にではなく楽観的に、そう私は思う。
(Mikako)
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