「バスカヴィル家の犬」(10/10)
僕らには居場所がない。
なんで公園に毎日来てしまうのかわからない。
誰かと話したい。
たとえチビのオヤジで、ケツをさわられたって。
アフリカで、ライオンに食べられるシマウマを見たことある?
シマウマは、仲間が食べられる姿を見ないようにして全速力で逃げる。
逃げた先で、仲間が食い殺された事を一早く忘れて生きるんだ。
公園には、見えない大きな犬が住んでいて、ときどき客に姿を変えて僕らを買いに来る。
木島さんが、微笑みながら僕を手招きする。
僕は機嫌の良い顔を無理に造って、ゆっくりと客の近くに歩み寄る。
サメズの事を忘れたふりで。
【終】