利き腕(8/8)
利き腕(8/8)
結局、私は書きあげた本を、松山に手渡すことなく、彼と店の前で別れた。もう一軒行こう、という松山の誘いを断わって。松山は最後まで、不思議そうに私を見ていた。
利腕ではない方の手で、気まぐれで馬鹿馬鹿しい事を、私は時々やってしまう。
「新宿二丁目」のアスファルトの上で、その時私はある事に突然気がついた。
文才のない私が、本を三冊も出版できた理由(わけ)について。
私はただ、利腕を誰かに触ってほしかったのだ。淋しかったのだ。
私はこれからも、ブスのまま何かを書き続ける。(逆島鉈)【終わり】