利き腕
この街はおまえなんか待たない 〜「新宿二丁目」をめぐる短編
第3話「利き腕」(1/8)
〈逆島鉈〉
利き腕(ききうで)ではない方の手で、わざと日常の動作をしてみる。意味がなく、気まぐれで馬鹿馬鹿しい事を。私は時々、そういう事をしてしまう。松山と会う気になったのは、昔ぶざまに振られた傷が癒(い)えた訳でも、自分に自信がついたからでもない。私は今でもブスだ。努力をするブスは、ジムに通って「普通」を手に入れようとするが、私は努力をしないブスなのだ。
四年ぶりに松山に会う。なぜ今さら松山に電話をかけてしまったのか、今でもわからない。大学のゲイサークルのアイドルだった松山は、新宿二丁目のバーでもアイドル扱いだった。そしてそのまま四年、大学を中退した彼は私を手ひどくフッたことなど忘れ二丁目で働いている。齢(よわい)は、私と同じ、25だ。
(【続く】)
(逆島鉈 さかしま・なたる)