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レズビアン&ゲイライフをサポートするNPO法人アカーのWEBマガジン。編集部:「ふじべ・あらし」がお伝えしています。

八百万の死にざま(3/4)〜「新宿二丁目」読みきりフィクション

棚のファイルから、うじきさんに目を何気なく移した。心臓が止まりそうになる。背広の内側に、確かにビデオテープがすべり込んだのだ。

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うじきさんに目を何気なく移した。心臓が止まりそうになる。頭にカッと血がのぼり、たぶん僕は赤面しただろう。うじきさんの歩き方がぎこちない。店内には、僕とうじきさんだけだった。うじきさんは知らない。僕が勝手にアダ名をつけていることも、今僕が見ていたという事も。



僕はカウンターを出た。うじきさんに近付く。うじきさんの横顔がこわばる。



どうしてゲイは、さりげない出会いができないのだろう。笑って出会って、食事をしたり、ゆっくり話をしたり……。僕は未だ誰とも付き合った事がない。僕はフケ専じゃないはずだけど、うじきさんは見逃そう。そう思った時、後ろから、猪子さんの声が聞こえた。

「おは、よう」



いつもより早い出勤だ。でもきっとうじきさんの横顔を、猪子さんはきっと見抜いてたちまち彼を殴るだろう。

猪子さんがこっちを見るより一瞬早く、僕はよろけたふりでうじきさんに体当たりした。棚のビデオが、バラバラとぶつかった力で床に落ちる。うじきさんは床に座って、びっくりしている。どうか床に散らばったビデオの中に、うじきさんの背広から落ちたテープがありますように。僕は大声であやまった。


うじきさんは、早足に外に出ていった。照れ笑いをうかべ僕は、猪子さんをふり返る。


「あわてもん。いいよ、あがって」



(逆島鉈)【続く】

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