八百万の死にざま(2/4)〜「新宿二丁目」読みきりフィクション
店に入ってきた客の顔が、目に入った。「うじき」さんだった。
その日は早番だったので、店には社長も、猪子さんもまだ居ない。
うじきさんは、そのまま、俳優の同名の人に10年足したような人だ。
老けたうじきつよし。
割と品が良くて、服のセンスもいいので、ゲイの大人としては、まあ、まともな方だろう。
中年のゲイの人の人生は、その人の服と歩き方で、おおよそそのことは判ってしまう。
若作りや、見栄を張った靴などは、たいてい見抜かれる。そして万引き犯の割合が、どういうわけか多い。
中高年の分別のある大人が、どうしてホモビデオなんて盗むのだろう。店の棚のファイルには、万引き犯の顔を撮(と)った写真(たいてい泣いている)と、その人の住所、盗んだ物品と値段と名前が、一頁ごとに整理されている。
今のファイルで6冊目。
そのほとんどが中高年のゲだ。
【続く】(逆島鉈)