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レズビアン&ゲイライフをサポートするNPO法人アカーのWEBマガジン。編集部:「ふじべ・あらし」がお伝えしています。

八百万の死にざま(1/4)〜「新宿二丁目」読みきりフィクション

この街はおまえなんか待たない

〜「新宿二丁目」をめぐる短編

第1話「八百万の死にざま」(1/5)

〈逆島鉈〉


床に這(は)った50がらみの初老の男は、土下座になおっても、まだ泣き続けている。


男のそばには革の書類鞄(かばん)と、12,800円のラベルのついた『仮面の体育会・深夜の調教式』。泣いている男を、猪子(いのこ)さんはカシャカシャと、「撮りっきりコニカ」で撮影している。ひとしきり撮り終ったあと、猪子さんは、男を二発殴ってから、書類鞄をあけて財布をとり出す。ビデオテープの代金と消費税をあわせた額を抜きとり、男に財布を投げつける。猪子さんは大学時代、野球部のキャッチャーで、肩は猪のように盛りあがっている。もっとも、卒業して10年は経っているので、そのほとんどは脂(あぶら)のはずだ。しかしなぜか、肩と腕の力はすごいのだ。





新宿二丁目――この街で働くには、少し気を張る必要がある。他の人は楽に働いているように見えるけど、ゲイ・ポルノショップでバイトしている大学生の僕にとっては、少々きつい。同じゲイなのに、やっぱりこんなとき、つらいのだ。警察には通報しない。




万引きをつかまえる時より、見つけた時の方が神経を使うのだ。そいつに気取られないように、猪子さんか社長に伝えつつ、そいつから目を離さない。そして両足が店の外に出た瞬間に、一気につかまえる。この時少しでも油断すると、新宿通りから靖国通りまで走らなくてはならない。


 「万引き犯はね、人間じゃないのよー。少し位乱暴にしなきゃ、またやるのよー」



僕はこのポルノショップでバイトして2年になるけど、いまだに慣れない。猪子さんは少しおかしいのだ。僕はその時まで、万引き犯だって人間だし、同じゲイじゃんって思っていたのだった。【続く】(逆島鉈)



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