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レズビアン&ゲイライフをサポートするNPO法人アカーのWEBマガジン。編集部:「ふじべ・あらし」がお伝えしています。

「(見えない)欲望に向けて」〜追悼:村山敏勝さん(1967-2006)

村山敏勝さん(1967-2006)

「(見えない)欲望に向けて」〜追悼文(河口和也)

村山敏勝さん(1967-2006)は、アカーが持つ実践的な研究姿勢に常に敬意を持ってくださった英文学の研究者でした。同性愛者の文化研究の分野で、また翻訳や通訳の仕事を通して私たちに惜しみない協力をしてくださいました。生前、交流のあった河口和也さんに追悼文をお願いしました。

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◆想像できなかった重篤さ


村山敏勝さんが倒れられ、もしかするとその病状が重篤(じゅうとく)であるかもしれないと知らせを受けたのは、彼も参加していた研究プロジェクトの仕事でお茶の水女子大を訪れていたときだった。その日には、村山さんも訳者として関わっている主著をもつジョアン・コプチェクによる講演も同大学で予定されていた。病状の重篤さを知らされてはいても、それが数日後の死につながるほどのものであるとは思ってもいなかった。



◆村山さんとの出会い


村山さんとのお付き合いは、90年代半ばにアカーで行っていたアイデンティティ研究会(その成果はのちに『ゲイ・スタディーズ』として出版された)のためにD・ハルプリンによる『聖フーコーの翻訳をまだ準備稿段階で快く提供していただいたとき以来であった。


ゲイ・スタディーズ 聖フーコー―ゲイの聖人伝に向けて (批評空間叢書)


ある思想雑誌の編集長に、ポストモダン関連書籍の翻訳をさせたら村山さんの右に出るものはいないと言わせしめた確かな腕をお持ちであるが、翻訳完成以前にそれを貸してほしいとは、いまから思えばずいぶん無理なお願いをしたと思う。


『現代思想臨時増刊レズビアン/ゲイ・スタディーズ』『実践するセクシュアリティ』などでは翻訳や座談会への参加でご協力いただいた。



◆アカデミズムとアクティビズムの狭間に架ける橋


こうした出版物として人の目に触れる仕事だけではなく、アカーを訪れる海外からのアクティビストや研究者の通訳も快く買って出てくださった。

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そうした折に、村山さんは学問の専門家ではあるけれどアクティビズムの詳細にはあまり通じていないことを気にしながらも、いざ通訳の段階になるとアクティビストや研究者が語るテクストはもちろんのこと、それが織り成されるコンテクストについても細心の注意を払いながら日本語に変換していってくれたことを思い出す。そして、文化や社会的背景の違いに由来するコンテクストがわかりづらければ、私たちより先回りしてそれに関する質問をなげかけてくれたほどである。それは、英文学者としてテクストやコンテクストに対する注意や配慮、そして熱意を感じさせる出来事であったとともに、アカデミズムとアクティビズムの挟間を架橋しようという村山さんなりのアクティビズムであったのかもしれない。



◆(見えない)欲望に向けて

(見えない)欲望へ向けて―クィア批評との対話

そのような形で村山さんが架けてくれた橋の一端は、多くの著書のあとがきでアカーを「第一読者」として想定していることを述べ、とくに運動やコミュニティを扱っているわけでもない英文学に関する著作でも、アカーの存在に触れてくれていることのなかに垣間見られる。私たちの実践に対する村山さんのこのような思いの痕跡に対して、どのように応えていけばよいのだろうか。正直言えば、もっともっとお互いに生の声で言葉をかわすことをとおして、村山さんの主著のタイトルのように『(見えない)欲望に向けて』それぞれの生を変化させていくありようを感じることができればよかったと思うが、いまとなってはなす術もない。村山さんの残してくれた言葉に向き合って、その思いを私たちが実践のなかに翻訳し、痕跡として刻みつけていくこと。それが村山さんへの感謝と追悼の唯一の方法であるのかもしれない。

(河口和也)


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